第9回

2018.07.06 野菜や魚は積極的に摂るべき??

言い尽くされた言葉だけれど、食事は“バランス”。

井手
第7回ではコーヒー、第8回ではイソフラボンが前立腺がんの予防に肯定的な見解が示されているという話をしました。だからといって、コーヒーを飲まなくてはいけない、豆腐を食べなくてはいけないということではありません。意識が向くこと自体は良いことなのですが、食生活で最も意識すべきは、やはりバランスです。
──
今は好きなものや美味しいものを自由に食べられる時代だからこそ、アンバランスも生じやすいですよね。寿命が延びて、生活習慣病が増えているのが現実です。
井手
そうですね。ひいては、生活のバランスなのです。食事のバランスがよくても、ヘビースモーカーであったらどうでしょうか。第4回で、喫煙を続けた場合の前立腺がんによる死亡リスクは非喫煙者の1.6倍という話をしたのを覚えていますか。喫煙はせっかく摂取したビタミンCを体内から奪っていきます。
──
たばこを吸う女性はビタミンCを美容に使う余剰がなく、肌がくすみがち。「たばこ肌」なんていう言われ方をすることもあります。
井手
なんとも嬉しくない表現ですけれど、たばこを1本吸うと25mgのビタミンCが消費されると言われています。
──
1箱(20本)吸ったら、それだけで500mgじゃないですか。
井手
私たちの体は有害物質が入ってくると、防御モードに切り替わります。 ニコチンやタールは体を酸化させる有害物質ですから、たばこのニコチンやタールを排除するために、抗酸化ビタミンのビタミンCが大量に消費されてしまうのです。
──
しかもビタミンCは体内で作ることができないわけですから、摂取するしかないわけですよね。
井手
はい。体内でビタミンAに変換されるβ-カロテンやビタミンEも含め、抗酸化ビタミンは不足すると抗酸化力が低下し、体内の老化が進みます。細胞や血管のダメージも起こります。
──
やはり、“抗酸化”は健康維持のキーワードですね。
井手
そうですね。

食卓にトマトを。ジュースやケチャップも味方に。

井手
食生活の疫学的な研究からは、「前立腺がんの予防には高脂肪食を避け、トマトを含む野菜や大豆、魚類など従来の日本食に加えて、ポリフェノールの多い食品が勧められる」という報告があります。
──
トマトは名指しで登場なんですね。
井手
そうですね(笑)。 リコピンにはβ-カロテンのおよそ2倍、ビタミンEの100倍ほどの抗酸化作用があると言われています。そのリコピンを豊富に含んでいるのがトマトなんです。 実際、11のケースコントロール研究と10のコホート研究のメタ解析で、トマトの摂取は前立腺がんの発がんのリスクの低下に関連するという報告がなされています。
──
ケースコントロール研究とコホート研究についても伺えますか。
井手
ケースコントロール研究は、過去のデータを収集して研究するもの。病気の有無など現状から過去の要因(食事や生活習慣など)にさかのぼってデータを収集して解析を行います。

一方、現在から未来に向かってデータを収集して研究するのがコホート研究です。病気の原因や要因が考えられる状況にいる人といない人を追跡して、結果的に罹患の有無を調査します。
──
2つの研究結果が一致しないこともあるのではないですか?
井手
乖離が見られることはあります。実際、リコピンの血中濃度を調べた研究では結果が一致していません。ただ少なくともこれまで得られた両者の研究結果で、トマト摂取は悪性前立腺がんのリスクの低下に関連しています。発がんのリスクは新鮮なトマトが11%の減少、加熱したトマト食品は19%減少です。
──
加熱もOKなら、トマトジュース、トマトソース、ケチャップetc.摂取の幅が広がりますね。
井手
そうですね。 あと他にスイカ、ルビーグレープフルーツ、柿、さくんぼ、赤パプリカ、プラム、金時人参などにもリコピンが多く含まれています。トマトは大玉トマトよりミニトマト、よく熟れたトマトのほうが含有量が多いようです。
──
金時人参は京野菜に指定されている赤い人参ですね。 ルビーグレープフルーツは「ビタミンC」のイメージが強いですけれど、実はリコピンが豊富とは。でも果物は果糖が心配です。
井手
確かに果糖は摂りすぎると中性脂肪を増やしますが、スイカなんかはほとんどが水分。糖質もカロリーも低めなので食後の一切れ二切れは味方になってくれますよ。もちろん果物より野菜で摂るにこしたことはありませんが…。コホート研究では、ブロッコリーやカリフラワーを頻繁に食べる男性は、食べない男性に比べて、悪性度の高い前立腺がんの発症リスクが低いことが示されています。
──
アブラナ科の野菜ですね。
井手
はい。 アブラナ科の野菜に含まれているアソチオシアネートとインドールという物質が発がん物質を解毒し、がん細胞の増殖を抑制する可能性が示唆されています。

前立腺がんに対する魚の予防効果はまだ不明。

──
もうひとつ、高脂肪色を避けたバランスのよい食生活のたんぱく源としては魚が必須だと思うのですが。
井手
4つのコホート研究の解析では魚の摂取が前立腺がんのリスクを63%下げることに関連すると報告されています。6272人を対象とした30年間という長いコホート研究の結果でも、魚をまったく摂らない人と多量に摂取する人では、前立腺がんの発症に2〜3倍の違いがあることがわかりました。

ところがその後、魚に含まれる不飽和脂肪酸の中のオメガ3脂肪酸の過剰摂取は、前立腺がんのリスクを上昇に関連するという報告がなされ、前立腺がんに対する魚の予防効果に関してはさらなる今後の研究が待たれている段階です。普段の食生活で青魚を食べるレベルで心配することはないと思いますが。
──
健康のためにオメガ3脂肪酸のサプリメントを摂取している人は多そうでけれど。血液サラサラが期待できるEPAと、物忘れ予防のためのDHAは男性の間でも人気が高いと思います。
井手
サプリメントで摂取する際は、飲用方法や用量をしっかり守るのは大原則です。
──
サプリメントは前立腺がんの予防を見据えた商品もたくさんあるので、次の回ではサプリメントの取り入れ方について伺えればと思います。