第1回

2018.05.11 PSAは本来、精液中に存在するタンパク質。

PSAの普及で早期発見ができるようになった。

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井手先生にお話をお聞きしたいと思ったきっかけのひとつに、日本でも「前立腺がん」に罹患する人が増え続けている背景があります。

2020年には罹患数が肺がんに次いで2番目になるという予想もありますよね。 泌尿器がご専門の先生の言葉をお借りして、改めて、みなさんに“予防”に対する関心を深めていただけたらなと思っています。
井手
日本において前立腺がんはもともとあまり多くみられるがんではありませんでした。それが近年、もっとも増加しているがんのひとつになってしまいました。 原因は別の回でお伝えしますが、2020年には1995年の約6倍になると予測されています。
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なぜ、いきなりこんなに増えてしまったのでしょうか。
井手
原因は複数考えられますが、PSA検査の普及によってがんが見つかりやすくなったことも一因です。これは他のがんにも言えることですが、検診というのは普及すればするほど、早期の段階でがんが発見されるようになります。

ですから、2020年には2015年の約6 倍になると予測されている前立腺がん患者の数も、「根治の可能性の高い早期がん」「積極的な治療の必要性が求められない低悪性度のがん」も含めての“増加”です。
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それだけPSA検査は、前立腺がんの発見に役立っていると言うことなのですね。
井手
そうですね。 直腸内触診や超音波検査では発見が難しかった、症状が現れない早期のがんの可能性も、PSA検査によって調べることができるようになりましたからね。再確認も含めて、まずは「PSAって何?」というところから入っていきましょうか。
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よろしくお願いします。

PSAは前立腺の異常にのみ反応するマーカー。

井手
英語の勉強みたいになってしまいますが、PSAは「Prostate Specific Antigen」の略語です。Prostateは前立腺、Specificは特異の、Antigenは抗原という意味ですから、日本語では「前立腺特異抗原」。あくまでも抗原であって、PSAががん細胞なわけではありません。
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はい。 そこの部分を誤った解釈をしていらっしゃる方が見受けられます。 PSAそのものは男性であれば誰にも存在する物質。
井手
そうです。 PSA自体は、前立腺の上皮細胞から分泌されるタンパク物質です。多くは前立腺から精液中に分泌され、精子が体外に放出される時に精子の運動性を高める役割を果たしています。
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精液中に分泌されているものなのに「血液検査」が行われるのはなぜですか。
井手
一部は血液の中にも流れ出ているからです。しかも前立腺にがんがあると、がん細胞は多量のPSAを血液に放出するため、PSA値が高くなるんです。若くて健康な人のPSAは2.0ng/ml未満です。数値が高くなるほど前立腺がんの発見率は高くなりますが、1.0ng/mlだった人がいきなり10ng/mlになったりすることはまずありません。
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そう頭ではわかっても、PSA検査でグレーゾーンとされる4.0~10ng/mlの結果が出てしまうと、やはり不安になってしまうのが人の心理だと思うのですが。
井手
おっしゃる通りです。ただ前立腺がんは早期だと自覚症状はほとんどないので、早期発見のためにはPSA検査をする以外に方法がないのが現状です。見つからなければ、即座に治療が必要なものであるのか、アクティブサーベイランスという待機療法で様子を見ていけるものなのかもわかりません。

早期であれば完治の可能性も高まりますし、治療の効果が出ているかどうかの判断にもPSA検査は有効です。
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大腸や肝臓などの他の臓器の異常で、PSAが高くなることはないのですか。
井手
はい、それはありません。 最初にお話ししたPSAの意味を思い出してください。 PSA=前立腺特異抗原でしたよね。

PSAは加齢にともなう前立腺の肥大や炎症などによっても増えることはありますが、前立腺の異常にのみ反応するタンパク物質です。