第12回

2018.07.27 ライフログの活用のススメ

誰もが手軽にライフログを管理できる時代

井手
いよいよ最終回ですが、ウエラブルデバイスの普及によって急速に広がっている「ライフログ」の話で締めようと思います。
──
「ウエラブルデバイス?」「ライフログ?」という方もいらっしゃるかもしれませんので、なんぞやからお願いできますか。
井手
ライフログとは、生活(life)をデジタルデータで記録する(log)ことを指した総称です。たとえばスマートフォンで簡単に計測できる万歩計のアプリ。 あれもライフログのひとつです。
──
歩数だけでなく、距離が計算されたり、グラフになったり。便利ですよね。スマートフォンを持ってプールの中を歩くことはできませんけれど。
井手
そうですね。 そこで注目されているのがスマートフォンよりも正確に、長時間のデータ収集を行うことができるウエラブルデバイス。運動時はもちろん、寝ている時もお風呂に入っている時も身につけて利用できる情報端末のことです。たとえばアップルウォッチがそうです。
──
スマートウォッチと呼ばれる類のものですね。
井手
リストバンド型、クリップ型、メガネ型なんていうのもありますけれど、共通するのは、加速度センサーや心拍センサーが組み込まれていること。万歩計やジョギングしたときの距離や心拍数、カロリー消費、睡眠時間などを測定と記録ができることです。

それと普段の生活の活動記録を「見える化」することで、意識していなかったことにも意識を向けることもできますね。 医療目的などによる応用の範囲を広げることにもつながっています。

実際我々は、アメリカのJawbone社のUP2というウエラブルデバイスと新規に開発したアプリを用いてライフログを記録。肥満体質の改善、ひいては前立腺がんなどの悪性疾患の予防を目的として、あるパイロット研究を行いました。

「機能性食品」を食材にお弁当を作った

──
興味深いです。 どのような研究を。
井手
管理栄養士が設計した「機能性食品弁当」を勤務日のお昼に食べてもらい、ヘルスログを活用してその健康への効果を検証したんです。対象は帝京大学職員の男性ボランティア24名。健常だけれどメタボリックシンドロームのリスクが高い状態の人たちに協力してもらいました。
──
いつ頃のお話ですか。
井手
2015年の9月7日から3ヶ月間。
──
機能性食品弁当というのは、前回(第11回)説明していただいた、3種類の「保健機能食品」のうちのひとつの“機能性食品”を使ったお弁当ということですか?
井手
はい。主食もおかずも「機能性表示食品」と定義された農林水産物を使いました。必須栄養素には含まれないけれど、適量摂取することで健康増進への効果が期待される成分を含む食品ですね。

たとえば食後の血糖値の上昇を抑える表面研削加工玄米、鮭、牡蠣、クエルゴールド、高β-コングリシニン大豆、こいくれない、ケール粉末、高β-クリプトキサンチンみかんジュース、高カテキン緑茶等々。
──
クエルゴールドはケルセチンを高含有する新品種のたまねぎ、こいくれないはリコピンを豊富に含んだ人参ですね。
井手
そうです。具体的にはβ-グルカン、アラビノキシラン、フコイダンなどの食物繊維やカテキン、ルチン、ケルセチン、プロシアニジン、アントシアニン、イソフラボン、リコピン、β-クリプトキサンチン、アスタキサンチン、ルテインなどのポリフェノールを多く含む食材を使いました。
機能性弁当
──
見た目は、普通のお弁当と一緒ですが、カロリーは?
井手
700〜800kcal。 勤務日の昼にこのお弁当を食べてもらう以外は、とくに食事制限は指示せず、摂食開始前から、開始1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後に体重、体組成、腹囲、中性脂肪値、コレステロール値、8-OHdGなどを測定していきました。

前立腺がんへの影響が考えられる酸化ストレスマーカーも減少

──
3ヶ月後の結果はどうだったのでしょうか。
井手
十分なデータを得られた24名の統計学的解析の結果は、ヘルスデバイスの活用と機能性弁当の摂取によって、体重、腹囲の減少が見られました。 体重の減少がほぼなくても体脂肪率が5%以上減少した人もいました。
井手
さらに喜ばしいことがありましてね。酸化ストレスマーカーである血中の8-OHdGの低下が見られたんです。8-OHdG は活性酸素による酸化を受けると生体の修復過程で排泄される物質。いわゆる酸化ストレスマーカーとして血中、尿中、唾液中で測定できるのが特徴です。DNA損傷のマーカーでもあり、前立腺がんに罹患すると高くなる傾向があります。
──
機能性弁当の成果がはっきり出た感じですね。
井手
もちろん機能性食品の効果は大いにあると思います。 ただし朝、夜、間食の食事制限なしでこの結果です。
──
インターネットを用いた食事管理ができるシステムとして。
ウエラブルデバイスやヘルスログによって意識が変わったことも大きいと言えるのではないでしょうか。
井手
その通りです。画像による食事・摂取カロリーの記録、活動記録を使用者、管理者がリアルタイムに共有、閲覧できるシステムを構築したこと、加えて栄養士や医療関係者とコミュニケーションが取れるメッセージ機能を取り込んだのがよかったと思っています。双方向の情報伝達が大いに貢献しているのではないかと結論づけました。
──
先生たちが行ったパイロット研究などをベースに、今後はメタボリック症候群や生活習慣病などの改善、ひいては前立腺がんなどの疾患の予防にまで活用できる具体的なデバイスの開発もすすんでいきそうですね。
井手
それを期待していますし、我々もできる限りの協力をしていきたいと思っています。
──
12回に及ぶ、貴重なお話をありがとうございました。
井手
こちらこそありがとうございました。 「前立腺ケア.com」のサイトを訪問してくださった方に有益な情報になれれば幸いです。