第4回
2018.06.01
射精の回数が多いほど、前立腺がんのリスクが低下?
たばこは吸わないにこしたことはない。
- 井手
- 前回、自分では防げないリスク因子が「加齢」「遺伝」「人種」というお話しをしましたが、自分で防げるリスク因子としてあげられるのも3つ。「喫煙」「運動不足」「肥満」です。
- ──
- 喫煙は肺がんのイメージですが。
- 井手
- 前立腺がんの発症率と喫煙の関係は見られていないのですが、前立腺がんによる死亡リスクに関係しているという疫学的なデータが出ています。
だからといって、発症するまで吸っていていいという話ではありませんよ。たばこはさまざまな健康被害の原因となりますから、吸わないにこしたことはありません。
- ──
- はい。ただ、過去に喫煙歴があっても、間に合う印象を受けました。
- 井手
- それはありですね。10年以上禁煙、10年以下でも1年に20パック以下の喫煙であれば、前立腺がんのリスクが低下する報告がなされています。
一方、アメリカでのHealth Professional Follow-Up Studyでは、1986年〜2006年まで5366名をフォローし、喫煙を続けた場合の前立腺がんによる死亡リスクは、非喫煙者の1.6倍という結果を報告しました。
- ──
- やはり、禁煙は無理してでもと思ってしまいます。同様に運動不足も、もうすべての健康維持に必要なことですよね。
- 井手
- 運動不足と食生活が前立腺がん発症に関連しているといった疫学的研究は数え切れないほどあります。30METs以上の運動は、前立腺がんのリスクを約4割減少させるという報告もあります。
- ──
- METsはあまり馴染みのない単位ですよね。
- 井手
- METsは様々な身体活動を行った時に、安静時の何倍のカロリーを消費するかを示すものです。たとえば軽い筋トレ20分3METs、速歩15分4METs、軽いジョギングや階段昇降10分6METsといったように、様々な運動の強度が明らかになっています。
ちなみにSEXも1回あたり30分のトレッドミルの運動に相当するというデータがあります。
- ──
- トレッドミル、ルームランナーのことですね。
それなりの運動強度があるのですね。
生涯、週5日ペースで射精できますか。
- 井手
- SEXの話になったので、「前立腺がんの原因を考えた時、男性が生涯にわたって頻繁に射精することは、良い影響をもたらす」という報告があることをお伝えしておきましょうか。 因果関係を証明するものではないため、解釈には注意が必要ですが。
- ──
- お聞きしたいです。
- 井手
- アメリカの調査なのですが、1992年に46歳~81歳だった男性の医療従事者約3万人を2000年まで追跡調査したところ、性交、夢精、自慰を含む1カ月の射精回数が21回以上の人は、4~7回の人に比べて前立腺がんになる危険性が3割低下するということがわかったんですよ。
- ──
- 21回ですか。
- 井手
- 記事は2004年に米医師会誌「JAMA」に掲載されたのですが、対象者の数が多いので、結果の信頼性も高いとされ話題を呼びました。
ただ、なぜ射精回数が多いと前立腺がんリスクが低下するのか、メカニズムなどについてはわかっていません。それと、70代、80代になってそれだけ頻繁にできますかという話です。
- ──
- ……
- 井手
- 話を射精から「運動不足は前立腺がんのリスク要因だ」に戻しましょう。
放射線治療中に前立腺がん患者を追跡調査した米国ハーバード大学の研究でも、「週3時間以上の運動が前立腺がんの再発リスクと死亡のリスクを61%減少させた」という報告がなされています。
- ──
- 「がんの人が運動なんかしていいの?」 という素朴な疑問もわきますが。
- 井手
- もちろん症状や進行度にもよりますが、「運動できる人はしたほうがいい」というのが最近の定説です。
さてさて、その運動不足とも大いに関係があり、前立腺がんの最大のリスクファクターと言われているのが「肥満」です。次回は太りすぎのみなさんに警鐘を鳴らしたいと思います。
第5回
「肥満はテストステロン(男性ホルモン)を減少させる」
につづきます