第5回

2018.06.08 肥満はテストステロン(男性ホルモン)を減少させる。

肥満は前立腺がんの強力なリスクファクター。

井手
第3回で前立腺がんのリスク因子のひとつに「人種」があるというお話をしました。
──
「黒人」のリスクが最も高く、「白人」「黄色人種」の順ということでした。
井手
はい。日本人は黄色人種ですから、元来前立腺がんの発症率は高くないはずなんです。ところが、 2020年には1995年の6倍になると予測される勢いで、日本人男性の前立腺がん罹患者が増えているのが現実です。
──
食生活などのライフスタイルの変化が影響しているということでしょうか?
井手
そうですね。ライフスタイルと前立腺がんの発症には、密接な関係があるということが示唆されています。 実際、アメリカに移住した日本人には前立腺がんの発症リスクの増加が見られます。

豆類などのポリフェノールを含む食生活が、 黄色人種の前立腺がん発症率の低さに関与しているのではないかとも言われています。
──
ところが近年は色人種の日本人にも前立腺がんに罹患する人が増えている。 その背景には、食生活の欧米化がひとつの要因としてありそうですね。
井手
そうですね。前立腺がんの強力なリスク因子と言われる肥満人口も増加の一途です。 30年前は15%だった肥満率が今は30%。倍増しているのが日本人の中高年男性の現状です。
──
肥満と前立腺がんの関係は、はっきりしているのでしょうか?
井手
厳密には研究結果の解析が待たれているところではありますが、発表される論文の多くが「メタボリック症候群が強力な前立腺がんのリスクファクターになっている」というものです。BMIが30以上では前立腺がん死が約2倍になるという報告もあります。
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井手
メタボリック症候群は、内蔵型肥満に加え、高血糖・高血圧・脂質異常のうち2つ以上の症状が出ている状態のことを指しますが、内蔵型肥満の原因は過食と運動不足です。
──
男性は腹囲85cmを超えると内臓型肥満の疑いありの判定がくだされますよね。 BMIについてはご説明をいただけますか。
井手
BMIは体重と身長の関係から算出する人の体格指数のことです。

計算式は、体重kg ÷ (身長m ×身長m)

たとえば身長が170cmで体重が75kgなら、75÷(1.7×1.7)=BMI 25.9です。

今は「BMI」で検索すると、自動で計算してくれるサイトがたくさん出てくるので、やってみてください。ちなみにBMIは18.5~25未満が標準の範囲内。 18.5以下は痩せ、25以上になると肥満気味と判定されます。

動脈硬化だけでない、高コレステロール問題。

──
BMIが30以上になると前立腺がん死が約2倍になるという研究結果があるということですが、「太りすぎは万病のもと」ですから、前立腺がんに限ったことではないのではと思うのですが。
井手
それがですね、国立がんセンターから出ている日本人をバックグラウンドにした疫学的調査があるのですが、全がん種で見た場合はコレステロール値と発がんリスクは関係がないという結果が出ているんです。

ところが前立腺がんにしぼると、コレステロール値が高い人ほど前立腺がんになりやすいという結果が出ていましてね。ラットの実験ですが、実は肝臓より前立腺にコレステロールが多くあることがわかっています。ヒトの場合も、前立腺組織のなかにコレステロールが蓄えられている報告もあります。
──
コレステロールは、LDL(悪玉)もHDL(善玉)も大切な役目がありますが、たまったコレステロールは“燃えないゴミ”のようなものですから、やはり基準値内にこしたことはありませんね。
井手
そうですね。それと、これも肥満が前立腺がんのリスク因子と考えられることのひとつなのですが、肥満で増加する物質と減少する物質があるんです。

具体的には、「インスリン」と「炎症性サイトカイン」が増えて、「アディポネクチン」と「テストステロン」が減り、これらの物質の増減が前立腺細胞の発がんや悪性化に関与すると考えられています。
──
それぞれのご説明を簡単にお願いできますか。
井手
「インスリン」はご存知の通り、体の細胞が血液から血糖を取り込んでエネルギーとして利用するのに必要なホルモンです。「炎症性サイトカイン」は、なにか炎症が起こったときに炎症を強めてしまう物質です。

「アディポネクチン」は脂肪の燃焼を促す働きがあるので、最近は「痩せホルモン」などとも言われていますね。「テストステロン」は男性ホルモンの一種です。
──
テストステロン(男性ホルモン)にも影響があるのですね。
井手
はい。 テストステロンは骨や筋肉の強度、性機能の維持などに関わっている男性ホルモンですが、テストステロンが低いほうが前立腺がんの悪性度が高かったり、精囊への浸潤が見られたり。そういうことがあります。 でも肥満は、食生活の見直しや運動習慣によって改善が可能なこと。肥満を防ぐことが前立腺がんの予防につながることは確かです。